<2006.4.9>
「さあ、いよいよね。」せつさんの目は、すっかり座っています。
こういうときのせつさんもおっかないです。
飛行機を降りると、マンチェスター空港は、すっかり暗闇に包まれています。
そうだ、まずドライブマップを買って、それから予約していたレンタカーを借りにいかないとな。
と、頭の中でシュミレーションを繰り返しています。・・・アイハブアリザベーション・・・。
ふと気がつくと、せつさんがいません。
どこかにでかけると、必ずいなくなってしまうのがせつさんです。
やれやれと思いながらあたりを見まわしてみると、キヨスクというかコンビニというか、
お店で店員のお兄さんとなにやらこぜりあいをしているではないですか。
あわてて近づくと、どうやら地図のことで言葉が通じないようです。
せつさんは北西のもっと拡大図がないかといっているようですが、
もともと日本語でも何を言っているのかよくわからないところがあるので、
イギリス人相手に通じるわけがありません。
とりあえずその店においてあったいちばんわかりやすいドライブマップを買って、
いざレンタカーへ。
と思ったのですが、ふと気がつくとまたせつさんがいません。
こんどはガードマンの人に私たちはどこに行けばいいのか聞いているようですが、
案の定つたわるわけがありません。
とにかく空港を出て向かいのビルへいけといっているのではないかと、
ほとんど勘で見当をつけて、荷物をかかえて逃げるようにその場を去りました。
が、どうも怪しいです。向かいのビルは真っ暗です。
確かにレンタカーの看板は出ていますが、誰もいません。
うそだろ。まさかもう閉まっちゃったんじゃないだろうな。
僕は不安におののきながら、そのビルに入りました。
こういうときのせつさんは絶対についてきません。めんどくさいことになりそうだとわかると、
動物的な感で、「わたし、ここで待ってる」が口癖です。
ビルの中には、機嫌の悪そうなおじいさんがひとり、真っ暗な中で椅子に座っています。
「アイドライクトゥゴウトゥなんたらかんたら」と僕が不安におののきながらたずねると、
なにもいわずあっちという感じで指をさします。
はあ、という顔をしていると、さらに指をさして、こんどはあごを上げます。
これ以上かかわるとよくない予感がしたので、「サンキュー」とかいって、その場を去りました。
外ではせつさんが一心不乱にメモを取っています。
なにをしているのかとそっとのぞくと、まんがを書いています。
「なに、してんの」と僕。びっくりしたように「気持ちを落ち着けてるの」とせつさん。
せつさんは不安や緊張におそわれると、じぶんでもなにをしているのかわからなくなって、
ものを忘れたり、落としたり、そりゃあたいへんなんです。
それはそうとレンタカー屋さんにいかなきゃ。
まいったな。今晩じゅうに、ホテルにいけるのかな。
ものすごく不安だな。ものすごく緊張するな。
でも僕がそんなそぶり見せることできないもんな。
まいったな。こりゃ、買い付けどころじゃないぞ。
このまま帰ろうかな。ぶつぶつぶつぶつ。
ふとみると、僕以上に、せつさんがぶつぶつぶつぶつ言っているではないですか。まずい。
僕は必要以上に大きな声で、「ハプニングも、旅の楽しさだよねえ。」
・・・・・・・つづく。
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