<2006.4.7>
「ねえ、素敵だと思わない。」
店長のせつさんが目をクリックリッ輝かせて、僕に話しかけます。
こういうときのせつさんは、おっかないです。
彼女の頭の中でおもいっきりふくらんでいるイメージを少しでも否定するような発言をしたら、
たいへんなことになってしまうからです。
僕は言葉を慎重に選びながら、せつさんに「え、それってなんだろうね。」
と、すごく興味を持っているようなそぶりで聞き返します。
「イギリス買い付け交換日記っていう、タイトルにしようと思うの。」
さらに目がクリックリッしています。
こうなるともう、反論なんてだれにもできません。
どうやら、いま準備しているネットショップのブログのことのようです。
一抹の不安は、いま、確かな不安となって、ぼくに襲いかかります。
交換日記って、そういえば中学生のときにやっていたなあ、などと考えながら、
いい年をしたおじさんが何を好き好んでインターネットで
妻と交換日記なんかを披露しなくてはいけないんだよ。
ぜったい、友達にはいえないよな。なんて、頭の中はぐるぐるまわっています。
そんなことはおかまいなくせつさんは続けます。
「まずはじめに私が書くの。」
「ねっ。」といって、またクリックリッです。
「つぎにあなたが書くの。」「そのつぎに私。」
「そのつぎにあなた。」「そのつぎに私。」
「そのつぎに・・・・・」クリックリッ。
ああ、なんだか、気が狂いそうです。
でもいちど言い出したらきかないせつさんのことですから、
結局、いま、こうして僕は交換日記を書いているわけです。
つい取り乱して、前置きが長くなってしまいました。本題に入ります。
さっき、せつさんの1回目を読んだら、いきなりマンチェスターから始まっているのですね。
ま、ここがせつさんらしいところでもあるのですが。
僕の場合、マンチェスター空港に降り立つ2ヶ月前から、この買い付けは始まっています。
なんといっても、お金をかけたくないというせつさんの強い希望があるわけですから、
飛行機、ホテル、レンタカー、食事、すべて自分たちで、
おっと僕が、やらなければいけないことになります。
お気づきだとは思いますが、せつさんの言う自分たちという意味は、
僕がという意味とほとんど同じです。
航空券の手配。これはせつさんがぜったいマイレージをつかわないと損だから、
ということで、生活のすべてをマイレージが貯まるよう、
ガソリン代、車検代、食事、買い物、電話、プロバイダー、・・・・・・
とにかく考えられる限りを登録しました。で、ぎりぎりロンドンまでのチケットをゲット。
ホテルの手配、これはインターネットで、UKのサイトに入り、
わけがわかんなかったんだけどようやく予約できました。
レンタカーは、案外、日本からでも簡単に予約できるんですね。
それと、いちばん肝心のアンティークフェアですが、これは3年前に行ったときの資料と、
やはりインターネットをつかって、調べまくりました。
いちばんたいへんだったのが、ドライブルート。
なんといっても、海外をクルマで走るのは初めてだし、
英語は話せないし、とうぜん、読めない。ということで、イギリスのgoogleマップを出力しては、
毎晩、ドライブシュミレーションをしていたことをせつさんは知る由もありません。
ま、そんなこんなで不安の塊になって、日本を出発した僕ですが、
ロンドンまでは興奮して眠れなかったものですから、
マンチェスターに着く前に不覚にも眠ってしまっていたようです。
目が覚めると、窓の外はさっきまで明るかったのがうそのように真っ暗です。
まだ夕方の4時ですよ。
それに、この旅の行く末を暗示するかのように、冷たい雨がしとしと降っています。
そういえばと思い、となりのせつさんを見ると、
僕の不安なんかまったく気にしてませんという顔で、
目がクリックリ。
・・・・・・つづく