<2006.9.15>
「ねえ、ステキだと思わない。」
すべては、せつさんのこの一言からはじまったのです。
当時、川崎の自宅の20坪ほどの庭には、せつさんが植えた、
いいえ正しく言うとせつさんに命令されて僕が植えたオールドローズたちが
ところ狭しと100本くらいは植わっていたでしょうか。
それは18年前の蒸し暑い夏の午後のことでした。
ずーっとテラスから庭を見下ろしていたせつさんは、
とつぜん振り返り、目をクリックリッ輝かせて、冒頭の発言になったのです。
こういうときのせつさんは、おっかないです。
少しでも反論めいたことを言うと、室温が5度は下がります。
僕は心の動揺を見透かされないように注意深く、言葉を選びました。
「えっ、どうしたの・・・」
せつさんは続けます。
「5000坪の土地に3000本のバラが、満開に咲いているの。」
もうだめです。こうなると、誰も止められません。
せつさんは、もうこの川崎の自宅にいません。
すでにせつさんが心の中で描いてる、
その5000坪のどこかの土地に行ってしまっています。
そういえば、ここのところせつさんは、庭を眺めてはため息をついていました。
「香水ビンをぶちまけたような、
むせ返るくらいのバラの香りに包まれるの。」
僕の背中は夏だというのに、冷や汗でじっとりと湿っていました。
この後の展開が手に取るようにわかるからです。
つづく
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